夕暮れの事務所に突然鳴り響いた電話。
電話は依頼者である君島裕太さんからだった。
「じ、神宮寺さんが車に……!」
「先生がどうされたんですか!?」
「神宮寺さんが車に突っ込まれて!
あ、いや、違った!突っ込まれそうになったっていうか!」
裕太さんは動揺しているようで、言っていることが要領を得ない。
「裕太さん、先生と話せますか?」
私まで取り乱してはいけないと、冷静に裕太さんに話しかける。
「は、はい……ちょっと待ってください」
電話には出られる状態なのだと、胸をなで下ろした。
程なく、受話器の向こうから先生の声が聞こえてくる。
「先生!どうされたんですか!?」
「洋子君、心配を掛けて悪い。裕太が先走っただけだ」
「事故に遭われたのかと……」
「狭い路地でスピードを出した車と接触しかけた。……故意か偶然かはわからないが」
「お怪我はありませんか?」
「ああ、車のナンバーを控えた。調べておいてくれ」
「はい」
私は車のナンバーをメモにとり、電話を切った。
先生に何事もなくてよかった……
けれど、安心するのは車について調べてからだ。
調査の結果、車は盗難車だとわかったが、
それが事件につながると断定できる材料は見つからなかった。
これまで何も起こらなかった中での、車との接触未遂。
それが君島さんではなく、先生の身に起こった。
「これに警告の意味があるのだとしたら……」
そんな不安が胸をよぎる。
窓を開けると、かすかに雨の匂いがする。
一雨きそうだった。