探偵 神宮寺三郎 復讐の輪舞

Novel

エピソード08 嵐の前に…

オレの手帳から落ちた一枚の古い写真。

「写っているのは弘樹さんと子供の頃の裕太か。この女性は……?」

写真を拾った神宮寺さんが、オレに問いかける。

「あ、えーと……」

受け取った写真を手帳に戻しながら、どう答えたものかと返答に迷った。
写真の女性について、隠すほどのことでもないが説明するのはやや面倒臭い。

「親父の知り合いの人です。一時、ウチの工場にいたことがあって……」

「そうか」

そう口にしながら、当時のことが胸を過ぎる。
写真の女性の名は早苗さん。
一緒に写っている子供は比奈。
彼女たちと過ごした日々は……温かな思い出として、オレの中に残っている。

「あの頃が一番楽しかったかもな……」

「裕太?」

「あ、いえ、何でもないです!
 それより、神宮寺さんのケガの方はどうですか?まだ痛みますか?」

「いや、もう何ということはない」

神宮寺さんに車が突っ込んだと、オレが慌てて御苑さんに報告してしまった一件。
今のところ、事件と断定することはできないと神宮寺さんは言っていた。

「せっかく神宮寺さんに来てもらってるのに、決定的な事は起こらないですね。
 やっぱり、悪戯だったのかな」

「それならいいが、調査終了までは油断せずに調べを進めよう」

「そうですね。あー、でも、神宮寺さんが来てくれるのも、あと数日かあ。寂しくなります」

下町の工場という代わり映えのしない生活の中で、私立探偵という存在は新鮮だった。
神宮寺さんは軽くオレの肩を叩く。

「探偵がいる生活より、いない生活の方がいいに決まっている」

「ははっ、そうですね」

神宮寺さんと会えなくなるのは残念だが、身の安全が確認できれば一安心だ。
親父の血圧もこれで少しは下がるだろう。
そう思っていたのに。
親父との別れ、彼女との再会……平穏とは程遠い日々が、オレを待っていた……

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