探偵 神宮寺三郎 復讐の輪舞

Novel

エピソード07 思い出の欠片

オレは立て付けの悪いドアを閉めて、工場の外に出た。
『君島製紙工場』……戸口に掛かっている、古びた看板の位置を直す。

「この工場も、そのうち建て直さないとなぁ。ますますボロくなってる」

外で待っていると言った探偵さんの姿を探す。
ずっと渡し忘れていた、名刺を渡すためだ。
名刺に刷られた名前は君島裕太……これでも、君島製紙工場の跡取り社員だ。

「オレの代になったら、最先端の格好いい工場に……あ!神宮寺さん!」

「裕太。名刺入れは見つかったのか?」

「それが……名刺を名刺入れじゃなくて、手帳の間に突っ込んでたみたいで」

オレは手帳を取り出して、名刺を手にした。

「では、改めて……君島製紙工場の君島裕太です」

「ああ。神宮寺三郎だ。改めてよろしく」

親父から教わったビジネスマナーを思い出して、神宮寺さんに名刺を渡す。
その時、手帳から何かが落ちた。

「あっ……」

「写真……?」

「え!あ、そ、それは……」

神宮寺さんが拾ってくれたのは、一枚の古い写真だった。
写真にはオレと親父、そして……一人の女性と女の子が写っている。

「写っているのは弘樹さんと子供の頃の裕太か。この女性は……?」

「あ、えーと……」

オレの母親かと聞かないのは、
幼い女の子が一緒に写っているからだろうか。
オレに兄妹はいない、それは神宮寺さんも知っている。
神宮寺さんから写真を受け取って、オレは目を細めた。
写真は過ぎ去った日々を思い出させる。
その写真を見て、オレの胸に込み上げてきたのは、
苦さを伴った懐かしさと寂しさだった……

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