オレは立て付けの悪いドアを閉めて、工場の外に出た。
『君島製紙工場』……戸口に掛かっている、古びた看板の位置を直す。
「この工場も、そのうち建て直さないとなぁ。ますますボロくなってる」
外で待っていると言った探偵さんの姿を探す。
ずっと渡し忘れていた、名刺を渡すためだ。
名刺に刷られた名前は君島裕太……これでも、君島製紙工場の跡取り社員だ。
「オレの代になったら、最先端の格好いい工場に……あ!神宮寺さん!」
「裕太。名刺入れは見つかったのか?」
「それが……名刺を名刺入れじゃなくて、手帳の間に突っ込んでたみたいで」
オレは手帳を取り出して、名刺を手にした。
「では、改めて……君島製紙工場の君島裕太です」
「ああ。神宮寺三郎だ。改めてよろしく」
親父から教わったビジネスマナーを思い出して、神宮寺さんに名刺を渡す。
その時、手帳から何かが落ちた。
「あっ……」
「写真……?」
「え!あ、そ、それは……」
神宮寺さんが拾ってくれたのは、一枚の古い写真だった。
写真にはオレと親父、そして……一人の女性と女の子が写っている。
「写っているのは弘樹さんと子供の頃の裕太か。この女性は……?」
「あ、えーと……」
オレの母親かと聞かないのは、
幼い女の子が一緒に写っているからだろうか。
オレに兄妹はいない、それは神宮寺さんも知っている。
神宮寺さんから写真を受け取って、オレは目を細めた。
写真は過ぎ去った日々を思い出させる。
その写真を見て、オレの胸に込み上げてきたのは、
苦さを伴った懐かしさと寂しさだった……