久しぶりに神宮寺君と飲んだ翌日。
朝の淀橋署で、鑑識の三好と顔を合わせた。
「おはようございます、熊野さん」
「おはよう」
「今朝は機嫌がいいですね。
昨日は神宮寺さんと飲んだんでしたっけ。元気でしたか?」
「ああ。いつも通り、危ない橋を渡っているような、
いないような……そんな感じだったよ」
「変わりなくて何よりです」
メガネの奥の瞳を細めた三好の手には、小さな象の置物が握られていた。
「ほう……象の置物か。なかなか可愛い顔をしているな」
「ええ、幸運の置物とかで。“骨董屋ひととせ”の虎を覚えてますか?」
「ああ、雪村虎……ひととせの店主か。三好の大学時代の友人だったな」
“骨董屋ひととせ”は新宿の外れに店を構える老舗の骨董屋だ。
不景気で潰れそうになっていたところを、神宮寺君に助けられたのは、つい最近のことだ。
「この象は虎から貰ったインド土産なんです。
ま、せっかくだからデスクに飾ろうかと思いまして」
手の中で小さな置物を遊ばせながら、そうそう……と三好が付け加える。
「最近、歌舞伎町のヤクザの動きが活発になってるって本当ですか?」
「小競り合いがちらちらと続いているようだ。面倒な事件が起きないといいんだがな」
気になる噂を抱える組はいくつかある。
その中のひとつを思い浮かべて、昨日の神宮寺君の話が引っ掛かった。
車と接触しかけたというが……まさか、あの組が関わっているのでは……
「熊野さん?どうしました?」
「いや、ちょっと気になることが出てきた。調べ物にいってくるよ」
ワシは最近の歌舞伎町での事件を調べ始めた。
鶴賀組という文字を探して。