探偵 神宮寺三郎 復讐の輪舞

Novel

エピソード05 雨音を聞きながら

夕方から降り始めた雨は夜遅くになっても、しつこく残っている。
ワシは馴染みのバーで友人が来るのを待っていた。
新宿淀橋署に籍を置く警部、熊野参造……
それがワシの名前だが、彼は親しみを込めて“熊さん”と呼ぶ。

「熊さん」

約束の時間通り、彼――神宮寺君が姿を見せた。

「元気そうで何より。仕事の方はどうかね」

「相変わらず景気は悪いが、なんとかやっているよ」

カウンターに並んで座り、軽くグラスを合わせる。
その時、神宮寺君の手首にサポーターが巻かれているのに気がついた。

「その手……痛めてしまったのか?」

「ああ、夕方にちょっとな。
 猛スピードの車と接触しかけた時にブロック塀に手をついたんだ」

その車との距離を親指と人差し指で示す。
それは至近距離といっても差し支えのない距離だった。

「危ないことに首を突っ込んでいるんじゃないだろうね」

「今のところは大丈夫だ。ああ、そうだ。
 その車だが、盗難車らしい。このナンバーなんだが……」

神宮寺君は手帳に車のナンバーを書くと、それをちぎってテーブルの上に置いた。

エピソード05 雨音を聞きながら

「何か情報があったら連絡をくれないか」

「それは構わないが……今回はどんな依頼なんだね」

「詳しいことは話せないが、ちょっとした身辺調査だ。よくあるケースだよ」

「君がそういう言い方をする時は、
 大きな事件に発展することが多い気がするのだが……ワシの気のせいかね?」

ワシの言葉に神宮寺君は苦笑する。
気心の知れた友人と飲む酒は美味く、時間が流れるのを早く感じていた。

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