探偵 神宮寺三郎 復讐の輪舞

Novel

エピソード09 予感と予兆

君島家の調査を始めてから、2週間が過ぎようとしている。
俺が君島製紙工場を訪れるのも明日までだ。
いつもと同じ時刻に君島家を訪ねると、弘樹が慌ただしい様子で玄関から出てきた。

「あ、神宮寺さん。おはようございます」

「おはようございます。どうかされましたか?」

「それが、入院中の父の容態があまりよくないと、病院から連絡がありまして……」

弘樹の父の名は君島龍之介。
心臓に持病があり、入院が長引きそうだという話があったばかりだ。

「朝からばたばたしていて申し訳ない。これから、病院に行ってきます」

「私の車で送りますよ」

「それは助かります!朝から裕太のヤツが車を使って出掛けてしまって……」

家の鍵を閉め、従業員に業務指示を出すと、弘樹はミニの助手席に乗り込んだ。
近くの市立病院まで、俺は車を走らせる。

「いつまでも口うるさいと思っていたのに……。
 親っていうのは、いつの間にか歳をとっているんですね」

弘樹が苦笑と共に呟く。
そういえば、弘樹と龍之介の親子関係については話を聞いたことがなかったな……

「龍之介さんは、君島工場の研究部門を担っていると聞きましたが……」

「ええ。私が工場を経営するようになってからは、父は研究一本でした。
 頑固な人でしたからね。ぶつかることも多かった……」

あまり仲は良くなかったと、弘樹はこぼす。

「あの事さえなければ、上手くいってたんだろうか……」

「あの事?」

「あ、いえ。昔の話です。ちょっとした諍いがありまして。
 それさえなければ、父と良い関係を築けていたのかな……と」

昔の話……その言葉に、先日、裕太が落とした写真を思い出す。
弘樹と裕太と一緒に写っていた女性と子供。
裕太は弘樹の知り合いだと言っていたが……

「あ、次の信号を曲がってください。その方が駐車場に入りやすいので」

「わかりました」

明日で調査は終わる。
気掛かりなことが多いまま、この依頼は終わりを迎えてしまいそうだった。

エピソード09 予感と予兆

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