君島家の調査を始めてから、2週間が過ぎようとしている。
俺が君島製紙工場を訪れるのも明日までだ。
いつもと同じ時刻に君島家を訪ねると、弘樹が慌ただしい様子で玄関から出てきた。
「あ、神宮寺さん。おはようございます」
「おはようございます。どうかされましたか?」
「それが、入院中の父の容態があまりよくないと、病院から連絡がありまして……」
弘樹の父の名は君島龍之介。
心臓に持病があり、入院が長引きそうだという話があったばかりだ。
「朝からばたばたしていて申し訳ない。これから、病院に行ってきます」
「私の車で送りますよ」
「それは助かります!朝から裕太のヤツが車を使って出掛けてしまって……」
家の鍵を閉め、従業員に業務指示を出すと、弘樹はミニの助手席に乗り込んだ。
近くの市立病院まで、俺は車を走らせる。
「いつまでも口うるさいと思っていたのに……。
親っていうのは、いつの間にか歳をとっているんですね」
弘樹が苦笑と共に呟く。
そういえば、弘樹と龍之介の親子関係については話を聞いたことがなかったな……
「龍之介さんは、君島工場の研究部門を担っていると聞きましたが……」
「ええ。私が工場を経営するようになってからは、父は研究一本でした。
頑固な人でしたからね。ぶつかることも多かった……」
あまり仲は良くなかったと、弘樹はこぼす。
「あの事さえなければ、上手くいってたんだろうか……」
「あの事?」
「あ、いえ。昔の話です。ちょっとした諍いがありまして。
それさえなければ、父と良い関係を築けていたのかな……と」
昔の話……その言葉に、先日、裕太が落とした写真を思い出す。
弘樹と裕太と一緒に写っていた女性と子供。
裕太は弘樹の知り合いだと言っていたが……
「あ、次の信号を曲がってください。その方が駐車場に入りやすいので」
「わかりました」
明日で調査は終わる。
気掛かりなことが多いまま、この依頼は終わりを迎えてしまいそうだった。